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2018.05.30コラム
プログラム変数を操作する

プログラム変数を操作する

プログラム変数を操作する

 ストレングス・トレーニング&コンディショニングのプログラム・デザインの中心となるのが、今回から説明するプログラム変数の操作である。前回まで解説してきた「ニーズ分析」とそれに基づく「目標値の設定」は、これから行うプログラム変数の操作をより適切におこなうための準備段階として最初に行わなければならないものであった。

◆プログラム変数とは何か

 プログラム変数とは、トレーニングのプログラムを作成するにあたって、設定した目標と実際のトレーニング条件に照らして様々な選択肢の中から最適なものを選んだり変更を加えるプログラムの要素のことを言う。

 プログラム変数として一般的に分類されているものは、以下の7項目である。1.エクササイズ種目の選択2.エクササイズ種目の配列3.エクササイズの強度4.エクササイズの量5.休息時間6.ワークアウト頻度7.エクササイズの様式 これら7項目のどれかがコントロールされなかったり、あいまいなままだったりすると、プログラムの目標が達成できなかったり、トレーニング効率が低下したりすることになる。これらのひとつひとつについて、厳密に検討しプログラムを作成していくのであるが、ひとつひとつについて目標と条件に照らして検討すると同時に、それらの相互関係も視野に入れて総合的に検討する必要がある。そして後で解説するピリオダイゼーションという長期的プログラムの作成においては、これら7項目の個々の内容とその相互関係をさらに時期にわたって変化させることになる。

 今回はこれらの変数について概観し、次回以降ひとつひとつを具体的に詳しく解説していくことにする。


◆エクササイズ種目の選択

 エクササイズ種目とは、レジスタンス・トレーニングであれば、ハング・クリーンとかフロント・スクワットとかスティッフド・レッグ・デッドリフトといった種目名のことである。そのほとんどはアメリカの選手やコーチの間で一般的に用いられている名称で表現するが、中には特殊なマシーンの名前や新たに考案されたオリジナルな種目の名前である場合もある。他のコンディショニングの場合、ストレッチングの名称やプライオメトリクスの名称などがエクササイズ種目としてあげられる。エクササイズ種目の名称をきちっと使い、区別することはエクササイズの目的や動作特性を明確にして効率よくプログラムを組み、その正しいテクニックを説明してトレーニングを進めていくためには極めて大切である。

 プログラムには、まずこの種目名が記載されることになる。数多くの種目名の中から何と何をチョイスするかということは簡単なようで実はきわめて難しい。

 種目選択の決め手となる要因のひとつは、バイオメカニクス的なニーズ分析と目標設定で明確にされた筋群あるいは関節または姿勢である。特に強化したい運動に関与する筋群を関節運動と個々の関節運動の総合されたものとしての姿勢に着目して最も類似した種目を選ぶという方法である。

 しかしこの方法は、動作の専門性に着目した特異的なエクササイズ種目を考える際には有効であるが、プログラムの目的が全面的な身体全体の筋力バランスの改善にある場合や筋肥大による体重の増加にある場合などは適切であるとは言えない。

 また、動作の部分的な類似性という外見だけで種目を選ぶと、実はパフォーマンス向上のポイントは別のところにあったという失敗をすることもある。あれもこれも種目を詰め込みすぎても時間的に実施不可能であったり焦点がぼけたりする。さらにある種目を実施するためにどうしても先に別の種目をしっかりと行っておく必要があるといった、段階や長期的な計画も種目選択には関係してくる。施設条件や器具の種類と数、管理的問題も種目選択には影響を及ぼす。

 このように多くの観点から総合的に検討して実施するべき種目をいくつかに絞り込んでいくのである。

 

◆エクササイズ種目の配列

 次に、絞り込まれたいくつかの種目を実際のワークアウトで実施していく順序を決めなければならない。すでに述べたようにプログラムとは時間的な流れに沿って実行する内容と方法を明示したものでなければならない。したがって実施順序が明確でない限りプログラムと呼ぶことはできない。もちろん、順序がどちらからでもよい部分や、ワークアウトやその日の条件に応じて実施順序をそのつど変更する箇所などが含まれることはある。

 配列に影響する要因にはその種目を実施するための選手の身体的・精神的エネルギーの必要度と疲労との関係、種目の重要度、種目の新規性、関与する筋群の量、テクニックの複雑性、トレーニング全体の目的などがある。

 エクササイズ種目の実施順序は、個々のエクササイズの効果を最大限に引き出しつつ、トレーニング全体としての目的が効率よく達成されるように工夫する必要がある。レジスタンス・トレーニングと他のトレーニングとの週内あるいは一日の前後関係や組み合わせも配列の問題として考慮しなければならい。


◆エクササイズの強度

 強度の決定の仕方には絶対的方法と相対的方法がある。またこれらは物理的方法と生理的方法に区別することができる。絶対的方法とは重さ(kg)、高さ(cm)、時間(秒)、心拍数(bpm)、傾斜(deg)等々により決定される。相対的方法は、最大筋力に対する%、最大跳躍高の%、最大スピードでの所要時間の%増、最大心拍数の%などによって決められる。物理的方法と生理的方法の区別は、客観的なランニングスピードに対する生体の負担度が必ずしも直線関係にないような、例えば血中乳酸値や主観的疲労度の個人差に対応する場合に必要となる。

 レジスタンス・トレーニングでは強度の設定はいくつかの方法が混在して用いられているいる。

 第1は、2kgとか3kgというように最初から絶対値として重量を示す方法である。これはほとんどすべての選手にとって使用重量に差がないような肩のローテータ・カフに対する種目や体重を用いて行うシット・アップやハイパー・エクステンションなどが基準の回数に達した次の段階でウエイトを負荷する場合などに簡単に強度を指定するのに有効である。

 2番目の方法は最大筋力に対する%として指定する方法である。筋力は本来ならば力の概念であるからその単位はニュートン(N)でなければならず、測定方法もウエイトに作用する加速度を考慮しなけばならないが、通常は便宜的に1Repetition Maximum(RM)という最大何kg挙げることができるのかという数字で最大筋力を捕らえている。この1RMという基準に対するパーセンテージで表す方法が%1RMと呼ぶ方法である。

 第3の方法は、最大何回挙げることができる重さかというRMで表す方法である。正しいフォームで連続5回上げる事ができればそれを5RMと表記する。もちろんこのRMに対する%という指定も可能である。


◆エクササイズの量

 エクササイズの量は、レジスタンス・トレーニングであればワークアウトあたりの総挙上重量や総挙上回数やセット数で表す。挙上回数はレペティション数を省略してレップ数と表記することもある。スプリントや持久走トレーニングであれば総ランニング距離や時間で表す。強度と量は通常は一方が大きくなると他方は小さくなるという関係にある。強度の高いすなわち重いウエイトでは数多く上げることができないし、強度の低い軽いウエイトであれば数多く挙げることができる。

 しかしその関係は意図的に変化させることができる。例えば軽いウエイトであっても少ない回数しか上げず、なおかつ少ないセット数で終わらせることも可能である。また非常に高い強度、例えば1RMの90%という重いウエイトであれば2レップ程度しかできないが、十分な休息時間をとることによって5セット~7セット程度行うこともできる。そうすると2×7=14となり、それよりずっと軽い7RM程度の重量で2セットしか行わなかったとの同じ総挙上回数となってしまう。このことは総挙上重量に関してもいえることである。またプライオメトリクスの回数に関しても、この量の決定は強度を考慮して目的との関係で決定される。

 レジスタンス・トレーニングで、最も通常のRM法にもとづいて、使用重量の重さとその重さでのレップ数がほぼ自動的に決まる場合には、量は単純にセット数ということになる。その場合はセット数は何セットであれば最も効果が高いか、何セット以上ならその効果はほとんどそれ以下と変わらないかといった観点からセット数を決めていくことになる。

◆セット間の休息時間

 プログラムの効果に極めて大きな影響を与えるにもかかわらず、通常のワークアウトにおいてあまり重要視されていないプログラム変数がこの休息時間である。しんどいから休みを長めに取るとか、次のステーションが他の人に使われていてできないから空くまで待つといった具合だと休息時間はコントロールできない。また早くトレーニングを終わらせようとしてどんどん休みを短くしてやってしまうというのも目的が最大筋力や最大パワーを発揮するという点にある場合は効果が少なくなる。厳密には休息時間はセット間だけでなく、種目間、レップ間についても考慮が必要となる。反復することで選手を疲れさせることや疲れた状態でがんばることが必要な場合と、できるだけフレッシュな状態で最大努力を繰り返す必要がある場合とでは、同じ「追い込む」といっても休息時間の意味合いが全く異なるので、この休息時間の指定は極めて重要なプログラムの変数となる。

◆ワークアウトの頻度

 通常、アークアウト(トレーニング・セッションというのも同じ意味)は30分以上の休息時間が空くと別のワークアウトと数えることが多い。例えば午前9時から10時半までトレーニングを行い、その後シューズを脱ぎ、水分を取ってリラックスして30分間の休息を取り、再び11時から12時までトレーニングすれば午前中に2セッション行ったと数えるのである。1日に何回ワークアウトがあるか、週に何回ワークアウトがあるかということは、結局ワークアウト間の休息時間を問題としていることになる。このワークアウト間の休息時間をプログラム変数として指定する際に、週に何回とか1日に何回といった頻度として表現するのである。したがって単に週に3回あるいは4回というだけでなく、ワークアウト間を何時間、何日空けるか、何曜日と何曜日の何時から行うかということが決められていなければならないことになる。


◆エクササイズ様式

 エクササイズ様式とは以上の6項目に直接該当しないが、具体的なエクササイズの実施方法に影響し、その結果トレーニングの効果を左右する可能性のある要素をさす。したがって以上6項目のいずれかに含めて考えるここともできる。その要素には以下のようなものがある。

・動作のスピード

・エクササイズ密度(時間当たりのエクササイズ数、強度、量)

・ワークアウトの総エクササイズ数

・可動範囲

・ワークアウトに要する時間

・テクニックのバリエーション

・ウォーミングアップとダウン

・種目間あるいはセット間の休息中の活動(ストレッチング、シッティングetc.)