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2018.05.30コラム
先を見通したトレーニング計画

◆トレーニング効果の分類

 トレーニング計画を立案するにあたって、さまざまな種類のトレーニング手段をいかに時間的に配列し、そのバリエーションや負荷の大きさや休息時間などをどのように設定するかということが数週間あるいは数ヶ月先を見通して、あらかじめ決定されていなければなりません。このことは単に今流行しているからとか、一流選手が使っているからとか、効果的であると言われているからという理由で、あるトレーニング手段をそのまま無計画にとりあえず使ってみようといった場当たり的な発想とは全く異なります。

 ある身体機能は別の身体機能の成熟や発達を基盤としてより効果的に発達したり、他の身体機能のトレーニングと同時に行うことによってその効果を高めたりすることがあります。したがって、あるトレーニングを行う前に別のトレーニングを一定期間行う必要があったり、いくつかのトレーニングの組み合わせを計画する必要があります。

 目的とするトレーニングの効果が、いつどのように現れるかという観点からトレーニング効果を分類すると、一般的に次のようなものがあると考えられています(Zatsiorsky,1995)。

急性効果:あるエクササイズを実行している最中に生じるトレーニング効果(スキルなどでよく見られる)。

即時効果:あるワークアウト(セッション)の結果としてその直後に生じるトレーニング効果(一時的な柔軟性の改善など)。

累積効果:いくつかの種類や数のワークアウト(セッション)の積み重ねとして、数週間後あるいは数ヶ月後、場合によっては数シーズン後に生じるトレーニング効果(筋肥大や筋力あるいはそれを基盤としたパワーなど)。

遅発効果:トレーニングを集中して行っている間には生じず、トレーニング負荷が軽減されたり、取り除かれた時点で遅れて現れてくるトレーニング効果(高度なスキルを伴うスピードなど)。

局部効果:ある特殊なエクササイズのみに見られるトレーニング効果(競技動作における上半身の筋力は低いがとりあえずベンチプレスの記録だけは向上した場合など)。

剰余効果:トレーニング停止(中断)後、トレーニングよって引き起こされた特定の身体機能の変化が維持されている程度(筋力、持久力、スピードなどの維持)。

 こうした観点から向上させたい身体機能のトレーニング効果を検討しその計画を立てていくことになります。

 

◆スピードと持久力 



 一例として、ランニングのスピードと持久力の両方が必要な球技におけるトレーニングを考えてみましょう。

 スピードは疲労のない状態での高度な神経-筋システムのコーディネーションを必要とするため、急性や即時効果としては発達せず、長期にわたるスキル、最大筋力、パワーなどの発達を基盤とした累積効果としてのみ発達し、疲労した状態では十分な効果が発現しません。しかし、その遅発効果は長くは続かない(剰余効果は少ない)、と考えられます。

 一方、持久力も長期的な累積効果を必要としますが、球技における持久走はスピードほど筋力やパワーや複雑なランニングスキルを必要としないと考えられるためこれらの先行的な発達を待つ必要はなく、剰余効果もスピードに比べると長いと言えます。

 また、トレーニングの実行段階におけるスピードと持久力の関係を考察すると、スタートや加速のトレーニングを何セットも反復する場合、有酸素系の持久力のベースがあるのとないのとではATP-PC系の回復時間が異なるのでトレーニング効率も異なってきます。したがって、まず、有酸素系のベースを作ってから次に乳酸系をトレーニングし、その上でATP-PC系を集中的にトレーニングするという計画がこの論理から導かれことになります。

 

◆最大筋力と瞬間的パワー



 瞬間的パワーを発達させる方法としてプライオメトリクスがよく知られています。プライオメトリクスによる瞬間的パワーの発達はある程度の最大筋力のベースが必要であるということから、まず最大筋力を向上させることがパワーのトレーニングに先行するべきだと説明する人がいます。一方でコンプレックストレーニングという名称で、最大筋力トレーニングとプライオメトリクスを同時進行させるほうが有効であるとも言われています。

 ある研究によると、初心者を対象とした実験ではコンプレックス法が有効ですが、ある程度のレベルに達した選手では、まず高重量によって最大筋力を徹底的に高めた上で、プライオメトリクスによってパワーの発達を集中的に刺激するほうが有効であるという結果が示されています。コンプレックス法では、レベルの高い選手において発達の余地がすでに小さくなっている最大筋力を集中的に高めることが困難であり、長期間のプライオメトリクスにによってその新奇性も失われていくためにトレーニング後期のパワーの発達が停滞するのではないかと考察されています(Verkhoshansky,1977)。

このように、同じトレーニング要素の組み合わせであっても、選手の年齢やレベルが異なれば、それらの関係も異なるため、また違った計画が必要となります。