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スポーツにおける、パワーとパワー測定について弊社代表の長谷川裕(龍谷大学教授)が雑誌コーチングクリニック誌(2004年9月号)に寄せた記事よりご紹介します。
パワーとは
 パワーとは一体、なんなのか。一般的には、身体の大きな人がその体格に見合った大きな力を発揮すると、「あの人はパワーがある」という言い方をします。あるいはその反対に、身体の小さな人や痩せている人に対しては、見た目の印象だけで「パワーがなさそ
う」と思ってしまいます。パワーとはスポーツ撞導者であれば、パワーとは『筋力×スピード』であるということは、常識的な知識として誰もが頭の中にインプットしていると思います。
ところが、そういう概念がある一方で、その名もズバリ、パワーリフテイングという競技(スクワット・ベンチプレス・デッドリフトの3種目で持ち上げた重量の合計を競う)では、速いスピードそのものは必要としません。では、それをもってパワーはいらないといえるのでしょうか。その反対に、スピードが速くても、筋力が弱い場合はどうなのでしょうか。『パワー=筋力×スピード』といいながら、こうした矛盾が、パワーに対する概念をあやふやなままにしているようです。したがって、
パワートレーニングとは何をやればいいのか、パワーの何が伸びたのか、あるいはそれがスポーツにどのように関係しているのか、が今ひとつよくわからないという人が多いのでしょうか。
本来、最も速いスピードを出すことと最も大きな力を発揮することとは両立しません。例えば、ベンチプレスで手に何も持たずに最大スピードで両手、を突き上げたら、このときのスピードが最大となります。負荷はゼロです。逆に、1RMのバーベルを持ってなん
とか挙上に成功したら、このときのスピードは最低でしょう。が、負荷は当然最大です。もっと重いウェイトを持てば、さらに大きな力が要求されますが、持ち上げることはできません。つまりアイソメトリックであり、当然、スピードはゼロになります。
パワーとは、筋力を発揮して損手の身体や砲丸やバットなどの対象物を移動させる『仕事』を、いかに短い時問で成し遂げられるかという『仕事率』のことです。ジャンプで自分の身体を移動させる場合もまったく同じです。相手を押したりバットを振ったりする距離や可動範囲をできるだけ短時間で移動すればよいわけですから、同じ力を発揮するにしてもできるだけ大きなスピードが出せればよい、ということになります、パワーが筋力×スピードとして表現できるのはこのためです。これまでもパワートレーニングという言葉を用いて、筋力だけでなく、スピードの要素も加味したトレーニングが重要であると説明されてきました。しかし結果として、アウトプットされるパワー出力だけを高めるだけなら、筋カとスビードのどちらを高めてもよいわけです。つまり、少々、スピードが低下しても、それ以上に筋カをアップさせればいいのです。しかし、限られた時間と可動範囲のなかで、いかに速く大きな力を発揮できるかについて考察していくと、従来のパワーという概念だけでは説明できなくなってしまいます。実際、スポーツ競技においては、ほんの数種目を除いて、スビードを競わない競技はありません。ほとんどすべてのスポーツにとって重要なのは、「ゆっくりと」「低速で」ではなく、「できるだけ素早く」「高速で」大きなカを生み出す能力です。つまり、その能力に着目し、その能力の改善なくして、スポーツパフォーマンスの向上はあり得ないということなのです。
爆発的筋力に目を向けよう
そして、その能力のことを、我々は“エクスプロッシブ・ストレングス(爆発的筋カ)”とか”スピード筋力”とかといっています。部分的に例外酌な場面もありますが、優れたスポーツパフォーマンスのためには、スピードこそ最も重要な要素であるといっても過言ではありません。例えば、ボールゲームや陸上競技の投擲などでは、手からボールやヤリや砲丸などがリり一スされる瞬間の初速度が重要となります。そのためには、下半身から上半身にかけて伝達される力によって生み出される最終的なスピードの増大が課題となります。野球やソフトボールのバッティング、テニスやバドミントン、卓球のスマッシュ、サッカーにおけるキック、バレーボールのサーブやスパイク、ボクシングのパンチや剣道の打突などの動作を考えてみても、やはりスピードが決め手となります。また、柔道やレスリングの投げ技、アメフトやラグビーのタックル、腕相撲なども、大きな力と同時に一瞬のスピードがなければ勝ち目がありません。さらにウェイトリフティングでも、一気に加速させたバーベルの軌道と、自分のポジションをコントロールする一瞬のスピードで、その試技が成功するか、失敗するかが決まります。より具体的な例を挙げて謹明しましょう。スプリンターがスパイクの裏をトラック上に叩きつけて力を加えている時間は、約0.1秒。レベルが高くなると、さらにそれよりも短くなります。ヤリ投選手が槍に投げるための力を加え始めて手から放たれるまでの時間も、0.1秒程度です、砲丸投では少し長くなり、およそ0.25秒。跳躍競技ではO.15〜O.2秒、バレーボールのスパイクジャンプでは0.2〜O.27秒くらいです。以上のように、ほとんどのスポーツの重要な局面で力を発揮する時間は0.1〜0.3秒までであるということは、多くの研究結果からすでに明らかです。
以上のような点からも、スポーツにおけるパワートレーニングを語るとき、本来着目すべきは、できるだけ短時間でできるだけ大きな力を立ち上げる能力や、動作の最初から最後まで加速し続ける能力などの総称である'爆発的筋力"である、ということがいえるわけです、ガスや火薬や噴霧されたガソリンに引火して、一気に燃焼するのが爆発です。
それに対して、大量の薪に徐々に火が撚え広がっていく大きな炎となるような、ジワジワと力を立ち上げたその最大値が“最大筋力”です。こちらは時間無制隈です。こういった観点からも、スポーツの局面において、どちらが有意な条件として働くかは明白です。つまり、スクワットやベンチプレスの1RMの値を最大筋力としてとらえ、その数値にいつまでもこだわり続けることは、競技場面ではまず使われることのない筋力に執着していることになります。ただ、その一方で、選手や指導書には未だ、その1R胴を上げていくことがそのまま競技力向上につながっていくという、ある意味“1RMの呪縛"を払拭できないでいるのが現状ではないでしょうか。スクワットやベンチプレスの1RMとは、一定の姿勢でどれだけの重量を持ち上げることができるかという測定です。ここにはスティッキングポイントと呼ばれる関節角度があり、この箇所を通遇できるかどうかで上がるか上がらないかが決まります。スティッキングポイントを我慢して、そこをクリアできれば、あとはなんとかなりますが、そのボイントを通遇するのに4秒近くかかってしまうことも稀ではありません。こんなに何秒もかけてやっと持ち上げられる1RMを高めることのみに全エネルギーを費やし、多くのトレーニング時間を注ぎ込むことが、わずかO.1秒しかないスプリントの接地時聞や時速140qのボールを迎え撃つ一瞬のバッティングにとって、どれほどの意昧があるのでしょうか。1RMにこだわりを見せることが、結果的にパワー向上に結びついているのであれば、意味のあることかもしれません。もちろん、筋力の低い人の場合は、主要な大筋群の筋力強化として、まず1RMを上げていくことは不可欠ですが、ある程度の競技歴を重ねてなお、さらに1RMのみに固執し続けていることが、逆にパワーを落としてしまっているということも、現実問題として生じているのです。これでは本末転倒です。当然、隈界が近づけば近づくほど、1RMの向上率は低くなります。しかし、軽い負荷であっても、パワーを高めることは、まだまだトレーニングの余地があるということなのです。
スピードとパワーを測ろう
ところが、いくらパワーやスピードが大事といっても、それが向上したかどうかを知る手段がなければ、意味がありません。つまり、パワーやスピードを測らないで、どうしてパワートレーニングといえるのだ、ということです。もちろん、これまでにもパワー測定が行われていなかったわけではありません。最も古いものでぱ、慣牲車輸といわれる大がかりな装置があり、その後、アイソキネティック装置が登場し、大学や病院、研究機関やトレーニングセンターなどに導入されました。これは、簡単にいえぱ、スピードを一定にコントロールしたなかで、筋力を測りパワーを求める装置です。しかし、残念ながら、アスリートや指導者がこうした高額な特殊装置を利用できるチャンスは隈られていることに痂え、スポーツ動作はすべて、全身の多くの関節が連動して力を発揮する多関節動作なのですが、この装置で得られるデータのほとんどが単関節運動の筋力やパワーであるため、こうした筋力・パワーの測定が、スポーツパフ才一マンスを向上させるためのトレーニングを行っていくために本当に役立っているとはいえませんでした。ではもっと簡単に、普段のトレーニング現場で測定する方法はないのでしょうか。現場で日常的に選手の爆発的筋力を知ることができれば、もっと効率のよいピンポイントのトレーニングが可能となり、選手自身のモチベーションも高まるはずです。そしてそれを可能にしたのが、スロパキアで開発されたフィットロダインという装置でした。 詳細に関しては別ページに譲りますが、私の研究室では1997年から導入し、それによってパワートレーニングに対する取り組み方が画期的に変わりました。図1は、大学のアメリカンフットボール選手を被験者とした@1RMの最大スクワットを体重で割った値、Aフィットロダインを使用したスクワットジャンプのパワー、さらにBマット(フィットロジャンパー)上でのリバウンドジャンプにおける滞空時間を接地時間で割った値と、40ヤードダッシュにおける、10ヤード、40ヤードのタイム、10〜40ヤードまでのタイムとの、それぞれの単純な相関を表したものです。これを見ると、1RMと10ヤードのタイムとの相関は0.49、10〜40ヤードとでは0.58、40ヤードとでは0.57でした。次に、ジャンプスクワットとの相関を見ると、それぞれ0.50,0.75,0.70。そしてリバウンドジャンプとの相関では、0.62,0.70,0.68でした。この相関係数から判断できることは、明らかに後者の2種目のほうが1RMよりも高い相関を示しているということです。 また、@→Bのそれぞれの相関を見ると、1RMとスクワットジャンプでは0.83,1RMとリバウンドジャンプとでは0.45、そしてスクワットジャンプとリバウンドジャンプでは0.60でした、以上の結果からも、スポーツパフ才一マンスの向上には、パワートシーニングが絶対条件であることが理解できると恩います。

図1 スクワットの1RM体重比とパワー、及びリバウンドジャンプとスプリントタイムとの相関関係
National Strength & Conditioning Association National Conference & Exhibition,
Indianepolis,IN,July 16-19,2003
 発表資料より抜粋(一部和文に変更 )
実施上の注意点
フィットロダインで実際に測定すれはすぐわかることですが、ベンチプレスやスクワットの最大パワーは、個人差はありますが、1RMの60〜80%で出てきます(図2&表)。しかし、過去のアイソメトリックの研究では1RMの30%で出ることカ確認さされています。しかし、このことから、「もし1RMが100sだとすると、最大パワーは30sのときに出ることになります。したがって、最大パワーを高めるためには、30kgで行えばいいということになるわけです」といった誤った説明がなされることもありました。まず、30sのときに最大パワーが出るというのが1つ目の間違いです。アイソメトリックはスピードがゼロのときの筋力であり、1RMは、実際に上がるかどうかの重量ですから、その30%というのは軽すぎるのです。第2に、最大パワーを高めるためには最大パワーが出る重さでトレーニングするだけでよいとは限らない、ということです。その重さよりも重い負荷と軽い負荷の両方を用いることによって、最大パワーがより向上しやすいことは、研究によって明らかです。 また、スポーツパフォーマンスを高めるためには、単純に最大パワーを高めればいいというわけではありませんむ例えば、バドミントンの軽いラケットを振るときのパワーを高めていく場合には、最大パワーを高めることよりも、より軽いウェイトでスピードを高めていくことを優先しなければなりません。その反対に、アメリカンフットボールのように、80〜100kgもある相手を突き飛ばすようなパワーは、1RMの50%の重量を速く動かすトレーニングをいくら行ったところで、力の要素ですでに負けてしまっているわけですから、より重い重量で発揮できるパワーを高めていかなければなりません。したがって、パワートレーニングを行うに当たっては、競技特性や選手のレベルを十分に把握し、爆発的筋力としての特性を踏まえた上で、それに見合ったトレーニングを戦略的に、実行していくことが重要となるのです。  

表 測定値の記録例            図2 測定値から作成したスピードとパワーのグラフ
     
【 参考・引用 】 コーチングクリニック誌(ベースボールマガジン社)2004/09号 
                         「パワートレーニング特集」  長谷川裕(龍谷大学教授、弊社代表) 寄稿記事より
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